ドナルド・トランプ前大統領による「南アフリカで白人が迫害されている」との主張は、近年再燃している政治的・社会的論争の一つ。以下に、その背景、主張、反論、そして事実に基づいた情報を詳しく整理する。
トランプ氏の主張と行動
•トランプ氏は、南アフリカの白人農家(特にアフリカーナー)が政府や暴力団体によって迫害され、殺害されていると主張。
•これを「白人ジェノサイド(white genocide)」と呼び、2025年2月に南アフリカへの米国援助の凍結と、59人の白人に難民認定を発表。
•トランプ氏や一部の右派メディアは、SNSなどを通じて暴力的な画像や映像を拡散し、「南アフリカでは白人が組織的に殺されている」と訴えている。
実際の状況:証拠と統計
農場襲撃
•南アフリカでは農場への襲撃事件(強盗・殺人)があるのは事実。ただし、すべての人種が被害にあっており、白人に限った現象ではない。
•2024年の統計によると、農場殺人事件が6件、白人犠牲者が1人(他は黒人または混血農民)。
※南アフリカの治安は全体的に悪く、農場は都市部に比べ警備が手薄であるため、ターゲットになりやすい。
土地改革政策
•南アフリカ政府はアパルトヘイト時代の不平等な土地所有を是正するため、「土地の無償収用」を含む土地改革政策を提案。
•これが「白人から土地を奪うものだ」として懸念されているが、実際には厳しい手続きがあり、現時点で強制収用は実施されていない。
国際社会と専門家の評価
政府・NGOの見解
•南アフリカ政府:トランプ氏の主張を「事実無根の虚偽情報」と断定。
•国連人権理事会・人権NGO:白人に対するジェノサイドの証拠は一切確認されていない。
•統計学者・治安専門家:農場襲撃の動機は主に「金銭目的の強盗」で、人種的な意図は認められないと分析。
誤情報の拡散例
トランプ氏が拡散した動画の中には:
•コンゴで撮影されたもので南アフリカと無関係のもの
•抗議活動での象徴的な演出(墓標)を本物の墓地と誤認したもの
なぜこの主張が支持されるのか?
1.白人少数派の不安:アパルトヘイト後の政治的逆転により、一部の白人は「逆差別」を感じている。
2.国際的右派の共鳴:移民・人種問題に敏感な欧米の右派層が「欧米白人の危機」として支持。
3.政治的利用:トランプ氏や一部の政治家は、これを「反グローバル主義」「反リベラル」の文脈で用いている。
結論
•南アフリカで白人に対する差別や迫害が“制度的に行われている”という証拠はない。
•トランプ氏の主張は一部の事例を誇張・誤解・誤情報に基づいており、実態とは乖離している。
•一方で、南アフリカには依然として治安・経済格差・歴史的土地問題という深刻な課題があり、全人種にとって課題となっている。
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